ハワイのSDGsゴール「アロハ・プラス・チャレンジ」とは?課題や取り組みを解説
ハワイは、その美しい自然環境や多様な生態系で知られる州。皆さんの中にも、ハワイの大自然に癒されるという理由でリピーターになっている方も多いのではないでしょうか?
ハワイは、他の地域と比較しても非常にユニーク。熱帯雨林が広がり、海岸には珊瑚礁が生息。活火山も息づいています。また、ハワイには独自の多様な生物が生息し、数多くの美しいビーチが広がります。
訪れる人々に感動を与えるハワイの自然環境ですが、気候変動や海水汚染、絶滅危惧種などの問題を抱えており、現在それらを食い止めるためにさまざまな活動が行われているのです。
中でも国連のSDGs(持続可能な開発目標)に基づいて、ハワイが設置した独自の取り組み「アロハ・プラス・チャレンジ」に力を入れているとのこと。
今回は、そんなアロハ・プラス・チャレンジの歴史や取り組み内容についてご紹介します。
ハワイを訪れる際に、ハワイのSDGsや自然環境を守る取り組みに貢献したい方は必見!また、今回の記事ではじめてハワイのSDGsの取り組みについて知った方は、ぜひハワイでご自身ができることについても考えてみてください。
ハワイのSDGs「アロハ・プラス・チャレンジ」とは
まず「アロハ・プラス・チャレンジ(Aloha+Challenge)」とは、国連が実施する持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)を基準に、ハワイ州が独自にゴールを設定した特別プログラムのことを指します。
地域主導のプログラムで、現在ハワイ州全体でこのプログラムに力を入れて取り組んでいます。
アロハ・プラス・チャレンジの歴史
ここからは、アロハ・プラス・チャレンジの歴史について簡単にご紹介。
今から約50年前の1976年に「マラマハワイ(Mālama Hawaiʻi)」という概念が生まれ、ハワイの自然や文化遺産を保護するための具体的な戦略が立てられました。「マラマ」はハワイ語で「ハワイを思いやる心」という意味があり、レスポンシブル・ツーリズムのハワイ版スローガンになっています。
2011年にホノルルで開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)では、「ハワイグリーングロース」構想が掲げられ、経済、社会、環境の優先事項に取り組むことで2030年までに持続可能な社会目標を達成することを発表しました。
そして2014年、ハワイ州は「アロハ・プラス・チャレンジ」を掲げ、持続可能な社会を実現するための6つの取り組みを定めました。その後、2015年9月に国連総会で持続可能な開発目標(SDGs)が正式に採択されると、2018年11月にはハワイグリーングロースが国連SDGs「Local2030 Hub」プロジェクトに、島として、そして太平洋地域の拠点としてはじめて認証されました。
ハワイは太平洋地域において、SDGsに向けた取り組みを先導しているのです。
ハワイが目指すSDGs 6つのゴール
ハワイ州のアロハ・プラス・チャレンジでは、SDGsの掲げる目標17個の中から独自の目標を6つに絞り、政府と民間企業が連携し、経済、社会、環境の観点から持続可能な社会を目指す取り組みを実施しています。
ここからはハワイ州の6つの目標について、その内容を詳しくご紹介。
①クリーンエネルギーへの転換
2030年までに、エネルギー供給の70%をクリーンエネルギーに移行し、そのうち40%を再生可能エネルギー、30%をエネルギー効率向上によるものとしています。そして、2045年までには100%代替エネルギーでの供給を目指しています。
- 電力:再生可能なエネルギー
2030年までに、電力部門における年産量の40%を再生可能なエネルギーに転換する - ガソリンの個人の年間消費量
2030年までに、年間の化石エネルギーの使用量を2008年レベルまで削減する - 温室効果ガスの排出
2030年までに、年間の化石エネルギーの使用量を1990年レベルまで削減する - 総エネルギー消費量
2030年までに、ハワイ州全体の化石エネルギーの年間消費量を削減する - 運輸部門
2030年までに、陸上運輸における、年間の石油消費量を大幅に削減する
ハワイは年間を通して日照時間が長いので、太陽光発電を増やすことが考えられます。現在、ワイキキから西に40分ほどのところにあるカポレイにて、大規模な太陽光発電のプロジェクトが実施されているようです。
またハワイでは、一部の地域で昨年電車が導入されましたが、ほとんどの地域では車が主要な移動手段。公共バスもありますが、時間がかかるため利便性に欠けています。個人のガソリン排出量を減らすためには、現在建設中の鉄道路線(ダニエル・K・イノウエ国際空港からアラモアナまで)の拡張を迅速に進めることが重要です。
②地元産の食材供給
現在ハワイ州の食料自給率は約10%。2030年までにはハワイの食料生産量を2倍に増やし、消費される食料の20〜30%を地元で生産されたもので賄うことを目標にしています。この取り組みは、地元で生産された食料の価格を抑えるだけでなく、食料廃棄物の削減も目指しています。
- 地元での食糧生産
2030年までに、地元での食料生産、加工、流通および消費を支援するために、人および土地資源のアクセスを改善する - 人および土地資源
2030年までに、地元の農業を確立するために、十分な土地を提供すると同時に、農業労働者や牧場運営者を支援するために十分な資金を割り当てる。またハワイ州のすべての島において、支援サービスを提供する - 加工
2030年までに、業務用厨房の総面積を増やし、業務用厨房やその運営者にアクセスしやすくすることにより、地元の食料加工業者や農業施設を支援し、地元の需要に対応できるようにする - 流通
2030年までに、増加する需要に対応できるよう、地元で供給可能な食料の要覧数を増やし、地元で生産される食料が、シェフ、ビジネス、起業家、農場、食料店主などの流通経路内で効率的な供給を確保する - 消費
2030年までに、地元産の食料コストや価格を削減すると同時に、食料廃棄物が大幅に削減され、その消費の便益が最大限となるように確保する
ハワイは島国ということもあり、多くの食材を輸入に依存しています。この問題を解決するべく、現在ワイキキにあるレストランを中心に、ハワイの多くの飲食店で地産地消に力を入れています。ハワイを訪れた際は、そのような地産地消に取り組んでいるお店を積極的に利用したいものですね。
また、クアロアでは観光客がタロイモの植え付けや収穫を体験できるツアーも実施。ハワイの文化やサステナビリティを学びたい方はぜひチェックしてみてください。
③天然資源の管理
自然資源の保護を目指し、淡水の確保、河川流域の森林の30%を保全、地元住民主導型の海洋資源管理、外来種の抑制、ハワイ固有種の保護などの取り組みを行います。さらに、淡水の確保や外来種へのバイオセキュリティ計画も含まれています。
- 淡水保水容量の増加
2016年1月1日の保水量を、基準値として、一日当たりの淡水保水容量を10億ガロンまでに増加する - 河川流域の森林
2030年までに、河川流域の森林の30%を保全する - 海洋管理地域
2030年までに、管理下にある海域の割合を大幅に増やす - 外来種の抑制
2030年までに、優先順位の高い外来種に対処するために、ハワイ州バイオセキュリティ計画を実施する - 在来種の管理
2030年までに、管理下にあるハワイの絶滅危惧種の割合を増やす
この項目に関して私たちが留意すべきは、ハイキングトレイルに足を踏み入れる際です。私たちが履いている靴には、ハワイに生息していない植物の種子などがついてしまっていることがあります。
そのため、ハワイ特有の生態系に影響を与える可能性もゼロではありません。トレイルには靴の裏の汚れを落とすためのコーナーが設置されているので、靴の裏をチェックしてから入るようにしましょう。
また、ハイキング中に美しい草花を見つけても、無闇に取らないようにしましょう。絶滅危惧種の植物であるかもしれないからです。
④固形廃棄物の削減
2030年までに、リサイクル、生物学的変換、生活習慣の改善、ゴミ・排水処理方法の開発などを通じて、廃棄物の70%削減を目指します。また、資源の再利用やリサイクルにも積極的に取り組みます。
- 総固形廃棄物量の削減
2030年までに、毎年、埋立処分から転換されるごみの量を増やす - 廃棄物の総発生量
2030年までに、廃棄物の年間総発生量を削減する - リサイクル2030年までに、新しい材質へと変換される廃棄物の量を大幅に増やす
- 発生源での削減
廃棄物やその毒性を削減できるよう、デザイン、材質利用、そして製造の段階での変化・改善を支援する - 再利用
2030年までに、資材の再利用を促進することで、資源の回収を支援する - 廃棄物発電
総ごみ処理量をH-Power廃棄物発電所で処理する
ハワイでは、定期的にさまざまなコミュニティがビーチのクリーンアップを開催しています。観光客でも気軽に参加できるものもあるので、気になる方はこちらの記事をチェックしてみてください。
⑤スマートで持続可能なコミュニティ
2030年までに、経済的な繁栄、多様な交通手段の提供、災害への回復力向上、温室効果ガス排出の削減、生活しやすい社会の形成を目指します。住宅費や交通費の削減、公共空間の多様化、土地利用の改善なども含みます。
- 交通機関やアクセスの改善
2030年までに、複数の交通手段の選択肢で、妥当な時間および金額で、人々が目的地へ安全にたどり着くことができることを実現する - 手ごろな価格住宅の提供
2030年までに、収入の住宅費および交通費にかかる割合を削減する - 経済環境の向上
2030年までに、ハワイの自然、文化、そして人々をより豊かにするような、経済的な機会を増やし、起業家の生態系を支援する - 回復力(レジリエンス)および災害管理
2030年までに、脆弱性を減らし、回復力を強化し、適応能力を強めることで、緊急の物理的な衝撃や慢性ストレスに耐え、立ち直る - 土地利用の改善
2030年までに、自然環境や人々に対する、土地利用のマイナス影響を最小限にすると同時に、建造環境の生活のしやすさを向上させる - オープンスペース、公共空間、グリーンスペースの多様化
2030年までに、ハワイに豊富にあるオープンスペース、公共空間、グリーンスペース、および文化遺産の利用の仕方を多様化させ、そこへの投資を促進し、それら空間を守るためのコミュニティ間のパートナーシップを強化する - 場所へのつながり
2030年までに、人々の間で、アイナ(大地)をありがたく思う気持ちを深め、地元の人々やコミュニティに対するつながりを強化することによって、人々の帰属感、責任感を養う - 温室効果ガスの緩和
2030年までに、州および世界的な目標値にのっとり、温室効果ガスの排出を削減する
この項目でまず顕著なのが、ハワイの住宅費が非常に高いこと。ハワイは世界有数のビーチリゾートで、海外からの投資やセカンドホームの需要も高まっており、住宅市場を押し上げています。
そのせいで、多くの地元住民が手の届かない高額な家賃や住宅価格に苦しんでいるのが現状。最近では、ハワイからアメリカ本土に引っ越してしまう家族も多いそうです。まずはハワイに住む人々が住みやすい環境を整える必要がありそうですね。
⑥グリーンジョブおよび環境教育
2030年までに、質の高い教育、雇用、労働力や専門的な能力の開発、イノベーションと起業機会の創出、持続可能な観光促進、経済の多様性を強化。グリーン成長の見通しを高め、地元のグリーンジョブや環境教育の機会を拡大します。
- アイナ(大地)を基盤とした教育、およびコミュニティエンゲージメント
2030年までに、大地、家族、そしてコミュニティとのつながりを育成するような、アイナを基盤とした教育や管理能力(スチュワードシップ)の機会を提供し、地元や地球規模でのサーバントリーダーシップへの道を築く - 転機をもたらすような学習や教育の実現
2030年までに、すべての学習者が、持続可能な未来を構築し、繁栄できるような知識や技術を身に付けることができるよう、主導的な教育経験を提供する - 質の高い教育の提供
2030年までに、すべての人々に包括的で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する - 労働力や専門的な能力の開発
2030年までに、組織的な変革や雇用創出を通して、専門職やボランティアといったハワイの労働力に、生産的な雇用を推進することで、地域住⺠、自然、そして経済的な豊かさを実現する - イノベーションと起業機会の向上
2030年までに、最低生活を行えるための生活賃金を確保できるような仕事や経済の多様化を実現できるよう、イノベーション、リサーチ、教育、そして起業の生態系を促進する - 持続可能な観光促進
2030年までに、ハワイの自然および文化遺産に投資し、地元での雇用創出や地域活性化を支えるような、持続可能なビジネスの実践を推奨する政策やイニシアチブを引き続き促進する - 経済の多様性
2030年までに、社会全体としての富を蓄え、コミュニティを活性化させるために、イノベーションへの投資を増加させ、金融サービスや便益、技術へのアクセスを改善させることで、経済の多様性を強化し、グリーン成⻑の見通しを高める
ハワイの経済は大部分が観光業に依存しており、持続可能な観光促進が必要です。観光業の成長と環境保護のバランスを取ることが課題でしょう。
また、ハワイに住む日本人に大きく関係することですが、ハワイは多文化社会であり、異なる文化や背景を持つ人々が共存しています。文化交流イベントや異文化理解教育などを通じて、人種を超えてコミュニティ全体が協力し合う文化を創り出すことが重要です。
アロハ・プラス・チャレンジ進捗状況
アロハ・プラス・チャレンジの達成状況および内容詳細は、常にオンラインダッシュボードで確認することができます。このように可視化して、誰でもチェックできるようにすること大切ですね。
ハワイ州・島ごとのチャレンジについて
アロハ・プラス・チャレンジは、ハワイ州全体として取り組むのはもちろん、ハワイ島、カウアイ島、オアフ島、マウイ島の4つの島も各自に行動指針を提案し州民参加型の達成目標を公開しています。
島ごとに生態系や置かれている状況が異なるからです。オアフ島だけでなく、これらのネイバーアイランドを訪れる予定の方はチェックしておきましょう。
- カウアイ島 https://www.kauaichallenge.org
- ハワイ島 https://werenew.net/hawaii
- マウイ島 https://mauichallenge.org
- オアフ島 https://werenew.net/oahu
最後に
今回は、ハワイがサステナビリティのため力を入れて取り組むアロハ・プラス・チャレンジの歴史や取り組み内容をお伝えしました。いかがでしたか?
観光客にとってハワイは「楽園」であり、全てが完璧に見えるかもしれませんが、実際にはさまざまな課題を抱えています。私たちがハワイを訪れる際には、ハワイの自然や生態系に影響を与えないように配慮し、ハワイのSDGsに貢献できるような旅の仕方を考える必要があります。
今回の記事が、次回ハワイを訪れる際にトラベラーとしての行動を考えるきっかけになれば嬉しいです。
「ポノトラベラー」は、旅先の地元住民が大切にしている自然環境や文化、習慣を尊重し、適切な行動を取ることができる旅行者のことを指します。一緒に「ポノトラベラー」を目指していきましょう。