ハワイの心を踊る〜フラダンスの軌跡と情熱〜星奈さんインタビュー
星奈さんは、神奈川県生まれのフラダンサー。ハワイの名門、Hālau Hi’iakaināmakalehuaに所属し、フラ最高峰の大会「メリーモナーク」にも出場しています。
今回は、星奈さんのフラダンスに対する情熱と、その魅力についてお話を伺いました。
フラダンスの旅の始まり
簡単な自己紹介をお願いします。
寺田 星奈(てらだ せいな)といいます。神奈川県生まれ、現在は東京在住です。平日は営業の仕事をしている傍ら、最近は自身のフラ教室オープンに向け準備をしています。好きなことは読書、芸術・舞台鑑賞(伝統芸能やバレエ等)、美味しいご飯を食べること、散歩です。性格はよく落ち着いていると言われますが、感動するとかなり涙脆いです。
フラを始めたきっかけや、フラ歴について教えてください。
幼少期に神奈川県の茅ヶ崎に住んでいた頃、幼馴染のお母さんが教室を立ち上げたのをきっかけにフラを始めました。当時3歳でしたが、その後小学生でHula ‘Oni Eハワイ大会に3度出場。中学〜高校と一度フラから離れましたが、大学からまたゆっくり再開しました。
その後ハワイ・オアフ島のHālau Hi’iakaināmakalehuaに所属し、フラ最高峰の大会、メリーモナーク大会にチームで出場、2021年(Kahiko-古典フラ1位)、2022年、2023年(ʻAuana-現代フラ1位)と3度出場しました。
フラの魅力はハワイ文化が持つ美しさに触れられること
フラの魅力は何ですか?
私視点のフラの魅力は、何よりハワイ文化が持つ深いところでの美しさに触れられることです。
踊られる多くのフラが優雅で華やかで、表面的にもちろん美しいですが、その美しさの根源となっているものはハワイアンが持つ心だと感じていて。
この時代にきっとおざなりになってしまっている、心からの人との繋がりや自然や先祖との関わりを、ハワイアンは大切にし次の世代へと繋いでいます。
その内面的な豊かさ、人としての温かさが、あの踊りの美となっているのだと思います。人としてきっと本来持つべき心のようなものを彼らから学ばさせてもらったことで、人生がとても豊かになり私自身とても救われました。
フラの練習はどのように行っていますか?
ハワイから帰国後はZoomにて現地の練習に参加していましたが、メリーモナーク期間は毎年3ヶ月ハワイに滞在し練習を受けていました。
フラを学ぶ中で、一番印象に残っているエピソードを教えてください。
全てが大切な思い出なのですが、やはりメリーモナーク大会期間の出来事はどの年も宝物です。
強いて言えば2021年のメリーモナークʻAuana(現代フラ)当日に起こった出来事かもしれません。当日ある大きなハプニングがあり、皆目に涙を溜めながら舞台に立つことになってしまって。でもそれがあってか、互いに深く繋がりあって踊ることができたんですよね。あそこまでお互いの魂のようなものが一つになって踊れた感覚は初めてで、きっと今後同じ経験はできないのではないかなと思います。
その年に踊った曲は、メッセージ性が強くとても苦労したのですが、踊った後の反響も大きくて。きっと、あの時の踊りだったからこそ届いたものがあったのだろうと思います。
メリーモナーク出場は生涯忘れられない経験に
メリーモナークについて教えてください。
メリーモナークは、毎年ハワイ島ヒロで開催されるフラ最高峰の大会です。元々は1960年の津波により被害を受けたヒロを復興させようと、1964年に開催されたフェスティバルが始まりです。
現在は、ソロ、現代フラ団体、古典フラ団体と3日間にわたりパフォーマンスが行われ、7名のハワイ文化の有識者により12の項目で採点がなされます。テレビ中継も行われ、ヒロ中にハワイや日本と様々な場所から人が集まり、とても賑やかな雰囲気になります。
メリーモナークに向けて、特別な準備や練習をしていましたか?
大会に出場するチームは、約5-3ヶ月前から大会の練習期間に入ります。私の場合VISAの関係で3ヶ月前にハワイ入りしますが、大会1ヶ月前には週6日の練習、練習がない日や練習前には、衣装作りやレイ作りの練習などがあるので、毎日長時間メンバーと過ごしています。大会が近づくにつれ心身共にボロボロになっていくので、体調管理には相当気をつけていました。
あとは精神統一のために、どこのチームもKapuと呼ばれる儀式や禁欲、食事制限なども行っていきます。特にKahiko(古典フラ)は神々や自然に捧げる神聖な踊りもあるので、肉体的にも精神的にも整える必要があるためです。
精神的にも準備ができているダンサー達は、舞台に上がった瞬間雰囲気の違いが分かります。Kahiko(古典フラ)の大会当日は会場も凛とした雰囲気になりますね。
練習中に苦労したことや、それをどう乗り越えたかを教えてください。
大会練習期間は日々乗り越えることに必死ですが(笑)、踊りに影響した一番の葛藤は、自分が日本人であることに向き合う瞬間だったと思います。
フラはハワイの文化であり彼らの踊りなので、フラと深く向き合うほどフラを遠くに感じてしまうことがあって。フラが人生のコアの部分になっているにも関わらず、この文化を本当の意味で理解し関わることができないと感じてしまう瞬間が辛かったですね。
日本人として何が貢献できるか、何を返せるのかと日々模索していました。
現時点での考えは、彼らの文化を大切に想い、そこから学ぼうとする心こそがきっと大切で、ダンサーとして彼らの踊りを愛を持って正しく踊ることが、何より彼らに対する敬意であるのかなと。
でもきっと、そんな葛藤も含めて私のフラ人生で、そんなフラが好きなのだと思います。
大会での思い出や印象的なエピソードはありますか?
大会間近になると、Kumuの元Kumuに踊りを見てもらったり、時には同じ舞台で踊る違うチームに練習を見てもらって意見をもらうこともありました。(特別な理由があったりしますが)他にも、他チームがレイに使うお花が足りず困っていた時には余っているお花を届けたり。
それって、大会をただの競技として捉えていたらあまり起こらないことだと思っていて。彼らが文化を次の世代に繋いでいくために、互いを尊重し、助け合っているからこそできることで。そんな機会が大会期間中多くあり、改めてハワイアンが自らの文化を大切に継承する心、フラという踊りの尊さを感じました。
あとは、踊る曲が舞台になっている島や土地へ勉強しに行く期間があるのですが、その時間もとても貴重なものです。
メリーモナーク出場を目指したきっかけなどあれば教えてください。
メリーモナークを目標としたことはなくって。今のKumuに出会った時、この人の元に行けば人として成長できると思い、当時全てを捨てて(笑)ハワイに行き、日々がむしゃらに頑張っていたら大会メンバーに選んでもらえた、という感じです。
フラから離れたり離れそうになると、不思議とフラに呼び戻された感覚があって。私はフラを通してでしか学べなかったものがあるのだろうなと思っています。
メリーモナークでのパフォーマンスはどのようなものでしたか?
言葉で表せられないものでした。毎年舞台から見える景色は違うのですが、最近だと2023年に1位をいただいたʻAuanaでは、お客さんと会場とも一体になって踊れた感覚になり、生涯忘れられないであろう経験になりました。
舞台に立つ前や、パフォーマンス中の心境を教えてください。
もちろん緊張はしますが、一番はフラへの愛と、舞台に立つまでに関わってくださった方々へ感謝の気持ちを持っていると思います。導いてくれたKumu、そしてチームメンバー、ミュージシャン、メリーモナークの運営に関わる方々、衣装やレイを作ってくれた方々、地域のサポートしてくれた方々、家族など、本当に沢山の方の想いやサポートがあって成り立っていて。その全ての想いを紡ぐことができるように、そしてKumuの思い描くビジョンを完成させることができるようにと踊っています。
緊張のコントロールは、自分自身を信頼できるまでどれだけ日々を積み重ねてきたかに限ると思います。難しいところなんですけどね。内から出る感情を大切にしています。
Kumu(先生)はどんな存在ですか。
恩師であり、なんだか父のような存在でもあり、適切な言葉が見つからないのですが、とにかく感謝してもしきれない存在です。彼らのお陰で今の私があり、心から大切な人達です。
フラは地元コミュニティにも影響を与える
フラは地元のコミュニティにどのような影響を与えていると感じますか?
フラ自体がハワイ文化を大きく担っているので、フラを踊ることは彼らにとって、自分たちの歴史、先祖、文化を守っていくこと、ハワイアンのスピリットを存続させていくことに繋がっているのだと感じます。
フラを通じてコミュニティの一員として感じることや学んだことはありますか?
人生をかけて文化を継承する彼らの活動の一部になり、学ばさせてもらえたことは、何にも代えがたい貴重な経験でした。民族や文化について、またフラを学ぶ日本人のあり方や日本でのフラの在り方について深く考えさせられました。
ハワイの暮らしに密接に関わるフラ
ハワイの自然や文化が、フラダンスにどのような影響を与えていますか?
ハワイの自然や文化はフラそのものなので、それなしにはフラは成り立ちません。ハワイに暮らしていると、この自然があってフラが生まれたのだなと、この踊りはこの土地のものだと、自然に体で感じることができますね。
ハワイの暮らしで思い出に残るエピソードを教えてください
あの豊かな自然の中で暮らしフラを通して自然に触れると、地球は自然そのもので、私たち人間はそこに住まわせてもらっているのだと、自然に対し畏敬の念を持つようになりました。それはフラにおいて必要な要素でもあり、きっと人としても大切にすべき感覚なのだと思います。
今後の目標
今後のフラダンスに関する目標や夢を教えてください。
今後オープン予定の教室を通して、これから出会う方々と新しい景色を作っていくことがとても楽しみです。
正直、日本人の私が日本でフラを教えること、それはもう本来のフラではなくなってしまうという気持ちもあります。
でも一方で、彼らの心を伝えること、また違った美しさを表現することはできるのではないかとも思っていて。私がフラに救われたように、フラを必要としている方々に届く活動ができたら本望かもしれません。
フラダンスに興味を持っている人たちへのアドバイスやメッセージをお願いします。
フラは間口が広いので、どんな方でも始めていただけます。
始める理由は、ハワイが好き、ハワイの音楽が好き、踊ってみたい、運動したいなど、何を楽しみ、何を美しいと思うかは自由です。
リスペクトを持って学べば、フラは人生における大切なことも教えてくれますし、自分の心を身体で感じ、心の声に向き合うことで、日々の彩もきっと豊かになっていきます。
少しでも惹かれるものがあるならば、それもきっとご縁です。心が動かされる瞬間を大切にしてください。是非、一緒に踊りましょう。
長々と語ってしまいましたが、最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。フラの魅力が伝わっていれば嬉しいです。
最後に
星奈さんのフラに対する深い愛情とハワイ文化への尊敬は、彼女の言葉からも強く伝わってきます。ハワイの自然や文化そのもので古くから尊ばれてきた美しいフラ、そしてフラを通じて感じる心の豊かさは、多くの人々に感動を与えるでしょう。近々オープン予定の彼女の教室を通じて、フラの素晴らしさがさらに広がり、多くの人々に届くことを願っています。